#9 「多様性がある社会の強さ〜不登校の子どもたち、そして私たちのこれから〜」ゲスト:玉崎蕗さん(2024.05.27 配信)

本記事は、音声配信『学校行かないカモラジオ』の内容をもとに抜粋・編集しています。内容や状況は配信当時のものであり、現在とは異なる場合があります。

第9回は、ゲストに日野里山フリースクールスタッフの玉崎 蕗さんをお迎えしております。今回はシリーズ最終回です。蕗ちゃん、そして日野里山フリースクールの今後のことをお聞きしています。

玉崎蕗さん
滋賀県甲賀市出身。高校卒業後、進学や就職を選ばず、ボランティアをしたり、 ヨーロッパを旅したり、自由に2年間を過ごす。その後、独学で小学校の教員免許を取得し、2021年に友人とともに日野町にフリースクールを立ち上げる。現在は日野里山フリースクールスタッフ。

【一般社団法人 日野里山フリースクール】
滋賀県日野町の自然豊かな山間にある古民家を中心に毎週月〜金曜日にフリースクールの活動を行われています。対象は小学生〜中学生です。

場所:滋賀県蒲生郡日野町蔵王490
活動:月曜日〜金曜日 9:30~15:00

将来は、自然に根差した暮らしがしてみたい!?

井ノ口

早速、蕗ちゃんの今後のことをざっくり聞いていこうと思います。お互いまだ年齢的にも、今後のことは、まだ目処が立たないというのが正直なところではあると思うんですけど。

玉崎

これまでの話で、多分皆さん感じてくださってるかなと思うんですけど、私自身としては、これまで流れに身を任せてここまで来てるんですね。フリースクールもやっぱり成り行きで立ち上がってるし。なので、将来に対して自分が決めてることっていうのはないです。

井ノ口

ないの!?(笑)

玉崎

今のフリースクールでの活動は、日々学ぶことが多くて、成長させてもらってるなと思ってるので、ずっと携わっていきたいっていう思いもあるけど、もっといろんなことを経験してみたいっていう思いもあります。
例えば学校現場でももっと働いてみたいなとか、もっといろんなシチュエーションで子どもと関わることがやってみたいなとか…。
子どもの頃から「夢は?」とか聞かれても答えられない人だったんですよね。でもずっとあるのは自然に近い暮らしをしたい・畑やりたい・動物飼いたいとか、そういうことは結構ずっと自分の中にあって。それはあまり変わらず自分の中にあるかなと思います。あとは、コミュニティづくりかな。自分が一緒に暮らしていきたいなっていう人と近くで暮らしながら自然に根差した暮らしをしたいです。そういうのはありますね。

井ノ口

前回でも思ったんですけど、ふきちゃんは「自分でこうしたいって決めたことはない」って言ってたけど、その真逆の印象があったんですよ。だから意外です。

玉崎

そうやね。「自分」はあると思ってるけど、決めて何かをするっていうことはあんまりないかな。

不登校の子どもたち自身は何にも悪くないし、何も問題はない

井ノ口

次の質問なんですけど、私みたいな不登校の周りにいる大人たちに伝えたいことはありますか?

玉崎

まず初めに伝えたいことは、不登校になっている子どもたち自身は何にも悪くないし、何も問題はないっていうことですね。どんな場所にも合うこ合わない子がいるっていうのは当たり前のことやと思います。ざわざわした場所や人がたくさんいるところが苦手とか、大人が多様なように、子どももすごく多様っていうのは当然のことっていうのがまず前提としてあって。そういう多様な子どもたちが、教育を受ける権利や居場所を提供されるのは、社会の側の責任やと思ってます。

なのでもっと教育を幅広く選べるような社会になってほしいなと思ってます。そういう意味でフリースクールでもまだまだこう社会の中で立場っていうのは確立されてはいないけれど、うちのフリースクールに通っている子どもたちも出席認定っていうのを学校からもらっていて。それぞれの学校の校長先生が実際に足を運んでくださって、「ここのフリースクールは子どもたちが通う場所として大丈夫やな」っていう判断をしてくださった時に、フリースクールに来てる日も学校で出席の扱いになるっていうことをしてもらっています。なので一定学校からも認められた機関であるっていうことですね。

「義務教育やから学校って休んだらあかんのちゃうか」って多分多くの人が思ってると思うんですけど教育機会確保法っていう法律が2017年に施行されています。その法律の中で、「しんどい時は学校休むことも大切です」とか、「フリースクールなど、いろんな場所があることが大切ですよ」っていうことがしっかりと法律上も明記されています。不登校の子どもたちを学校に戻すっていうことが絶対なわけではなくて、その子が一人の人間として社会的に自立していくっていうことを支えることが大切ですよっていうふうに書かれてあります。

なのでまずは子どもが悪いわけじゃないっていうことと、学校がしんどい時に無理していかなくてもいいということはまず伝えたいなと思います。

井ノ口

そんな大切なことが、ちゃんと法律になってるんですね。

玉崎

あとはやっぱり、私たちの周りにも、学校に行かずに育ったり、不登校やった期間があって、もう大人になってる人も結構いるし、うちのフリースクールをすでに卒業して育っていってくれてる子もいます。
今通ってきてくれてる子たちも含めて学校行ってないから何か劣ってるっていうことは全然ないなっていう風に思ってます。少なくとも私の出会ってきた人たちは、学校行ってないけど、大工さんになってたり、料理人になってたり、自分の進みたい道を、もしかしたら学校行ってた私たちよりもすごく早い段階で見つけて、そこに向かって進んでいってる人がたくさんいるなと感じています。だから不登校でも大丈夫やでっていうのも伝えたいかなと思います。

井ノ口

不登校を目の当たりにした時、本人を責める気持ちがなくても、やっぱり、不安な気持ちにはなると思います。でも私らの知り合いには本当に素敵な人たちがいっぱいいるから、全然大丈夫っていうのは本当にそう思います。

玉崎

自分の子供が不登校になったら、そうも構えていられなくなったりするもんなんかなっていうのは思うんですけど、でも、大丈夫やでっていうのは伝えたいです。あとは、どんな人にとっても、「居場所がある」っていうのがすごく大事だと思います。居場所があるから、自己肯定感が育まれるんちゃうかなと思います。

多様性のある社会は強い

井ノ口

もう1つ質問したいと思うんですけど、私は蕗ちゃんにすごく影響されてて。それこそ私は、当たり前のように大学を進学希望してた側の1人やったし、進路を選ぶという当事者意識すらなかったような高校生でした。そういう大学生とか高校生に向けて蕗ちゃんっていう立場からなんかあったら教えてほしいな。

玉崎

あんまり軽々しく言っていいのかわからへんけど、もっと自由に生きてもいいんじゃないかなっていうのは伝えたいことかなと思います。やっぱり今社会もすごく大きく変わってきてる時やと思うし、仕事も今までは就職が当たり前やったかもしれへんけど、もっと自分で切り開いていくことも必要になってくる時代なんかなと。

私はこれまで、大学の授業に呼ばれたりすることがあって。それは「キャリアデザイン」っていう授業で、「いろんな生き方がある」っていうことの一例として呼んでいただいたりするんですよ。

そういう時に「私、大学も出てへんのに大学で授業させてもらっていいんですかね」みたいなこと聞いたら「そんなん全然関係ないよ」みたいなことを、大学の先生が言ってくださるっていう(笑)大学も行ってへん私が大学で授業させてもらったりすることもあるし、こうしなあかんってあんまり思いすぎず生きてほしいなと思ってます。

井ノ口

就活の時期に入って余計に思うけど、私もまだ就職活動してないし、大学卒業したらとりあえずふらふら1年くらいしよっかなっていうのを今は考えてるんやけど、「そんな甘えたこと言わんと就職しなさい」みたいなこと言う大人は意外といない….。全くではないかもしれへんけど。

玉崎

多様性っていうのはほんまに私は大事なことやと思ってて。多様性がある社会っていうのは、社会としてもすごく強いことやと思う。そういう意味でフリースクールの子どもたちも、学校で学んでる子どもたちに比べて知らないこともたくさんあるかもしれないけど、逆に知ってることもたくさんあって。例えば災害があった時に、この子ら火起こしてご飯炊けるって強みやと思うんですね。だからいろんな人がいるっていうことはすごくいいことやと思う。
だから「周りと一緒じゃないとあかんとかそういうふうになんか思わなくても大丈夫やで」っていうことを伝えたいかなと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
4回にわたってお届けしてきた、玉崎蕗さんへのインタビュー。日野里山フリースクールのこと、そして玉崎さんご自身の思いや姿を、少しでも感じていただけていたらうれしいです。最後に、Flyingでの公開を記念して、収録から1年が経った今の思いを、玉崎さんに綴っていただきました。

玉崎 蕗さんより

 ラジオを収録していただいてから1年が経ちました。

 この1年で日野里山フリースクールが大きく変わったことは、何といっても建物の改装が大きく進んだことです。休眠預金の助成金のおかげで、キッチン、食堂、トイレ、図書室、学習室、スタッフルームができました。また、環境学習と災害時への対策をかねて、ソーラーパネルや薪ストーブも設置されました。今年度中にはシャワーもできる予定です。地域の建築士さんと大工さんのおかげで、建物全体が明るく暖かい雰囲気に生まれ変わりました。

 また、私自身の仕事環境にも大きな変化がありました。なんと、今年度(令和7年度)から、週4回、日野町教育委員会の会計年度任用職員として、『不登校支援コーディネーター』というお仕事をさせていただくことになったのです。『不登校支援コーディネーター』としての私のミッションは、『どこにも繋がっておらず孤立している不登校の子どもたちを何らかの形でどこか・だれかに繋げる』ことです。

 さらに、勤務日の半日を『子どもたち一人一人の学びの進度等を保護者や学校と共有し保障すること』を目的に日野里山フリースクールに派遣していただいています。このことによって、不登校の子どもたちを取り巻く様々な関係機関や学校と日野里山フリースクールとの間でより密な連携を取っていくという役割を果たしたいと考えています。
 
 まだ始まったばかりのお仕事ですが、どんなことをしていこうかととてもワクワクしています。

この記事を書いた人

Inokuchi Tamakiのアバター Inokuchi Tamaki 学校行かないカモラジオインタビュアー・Flyingエディター兼ライター

学校行かないカモラジオインタビュアー・Flyingエディター兼ライター。
2002年生まれ、滋賀県出身。同志社女子大学卒業。大学在学中に藤原辰史『ナチス・ドイツと有機農業』に影響を受け、ドイツの有機農家でホームステイを経験。人と自然の関わり、政治や教育のあり方に関心を持ち、各地で取材を行っている。

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