キャンペーンについて

 

琵琶湖のせっけん運動40周年記念県民運動のよびかけ

村上 悟
ぐるぐるびわ湖プロジェクト
(特定非営利活動法人碧いびわ湖・代表理事)

※記者会見における発表から
(2017年6月27日 滋賀県庁会見室)

<あいさつ>

本日はご多用の中、「琵琶湖のせっけん運動40周年記念県民運動 -びわ湖発。未来のセンタク2017キャンペーン-」の記者会見にお越し下さり、まことにありがとうございます。

私は、NPO碧いびわ湖代表理事の村上悟と申します。本キャンペーンを主催する「ぐるぐるびわ湖プロジェクト」の事務局団体を務めております。まず私から、6団体を代表して一言、ご挨拶申し上げます。

(写真)記者会見より/左から山下崇輝(生活クラブ生協滋賀)、園田由未子(愛のまちエコ倶楽部)、村上悟(碧いびわ湖)、鵜飼淳子(滋賀県地域女性団体連合会)、村上美和子(関西よつば連絡会)、仁木貴之(安全農産供給センター・使い捨て時代を考える会)

<せっけん運動をふりかえる>

今からちょうど40年前の1977年5月、琵琶湖に淡水赤潮が大発生し、湖周には異臭が漂いました。家庭排水に含まれる栄養分が主な原因でした。県民はみずから、リンを含む合成洗剤をやめてせっけんを使う運動を始めました。さらに、台所に流していたてんぷら油を流すのをやめ、地域で集めて回収し、せっけんの原料にして再生する運動が広がりました。

最初に動きはじめたのは、地域生協の組合員や、地域の婦人会の女性たち、そして労働組合の人々でした。加えて、当時の滋賀県知事、武村正義氏が先頭に立ち、行政が県民の動きに呼応したことで、県民活動と行政施策が車の両輪となり、運動は県内各地に広がりました。そして1980年の7月1日には、琵琶湖条例が施行されて有リン合成洗剤の販売規制を実現しました。この動きは「草の根自治の滋賀」と言われる住民運動として、全国の環境運動、住民運動に、大きな影響を与えました。

 

<使い捨ての暮らしからの脱却を>

しかし、あれから40年を経た今、びわ湖の自然は、豊かに回復したと言えるでしょうか。私たちの暮らしは、安心で、健康的になったと言えるでしょうか。

びわ湖の漁獲高は、低迷を続けています。今年はコアユの不漁までもが生じました。水質も、富栄養化には一定の改善が得られているものの、CODの微増や栄養塩のバランスが変化しているなど、不安定な要素が多々あります。これらの異変には、私たちが流す排水に加え、私たちが化石燃料由来のエネルギーを消費することに起因する、地球温暖化の影響があるとも言われています。

一方で社会は、貧困の格差が広がると共に、孤立する人が増えています。健康面では、花粉症や、化学物質過敏症などのアレルギー性の疾患も増えています。

さらには、いったん事故を起こせば甚大な土壌汚染と水汚染を引き起こし、地域経済を崩壊させることが明らかとなった原子力発電所が、命の水をたたえるびわ湖のすぐそばで稼働を再開し始めています。

 

このような、決して豊かとも安心ともいえない状況がいまだに続いているのは、私たち滋賀県民の暮らしとなりわいのあり方が、根本的に変化していないからである、と、私たちぐるぐるびわ湖プロジェクトの構成団体員は考えます。

これらの問題が生じている原因は、大規模集中型で、依存型の、「使い捨ての暮らし」です。この暮らしを止めない限り、私たちはいつまでも、身近な自然を傷つけ、人と人とのつながりを貧しくし続けてしまうと思います。

 

<循環型の暮らしへ>

せっけんを入口に、循環型社会をめざす「ぐるぐるびわ湖プロジェクト」の合言葉は「あらう、えらぶ。未来のセンタク」です。

では、びわ湖の自然をふたたび豊かにし、私たちの社会もまた豊かにする暮らしとは、どんな暮らしでしょうか。

それは、小規模分散型で、自立型の「循環型の暮らし」だと、私たちは確信します。

なぜなら循環型の暮らしは、身近にある資源とエネルギーで営むことができ、持続可能で、災害にも耐えうる暮らしであり、また、すべての人に役割と居場所があり、豊かなつながりを実感できる暮らしであるからです。

今日ここに集う6団体の構成員は、そのことを確信しています。なぜならば私たちはこれまで40年の間、地道に循環型の暮らしをつくり、実践してきたからです。ある団体は食を入り口に、ある団体は農業を入り口に、ある団体は女性の生き方を入り口に、そしてある団体はせっけんを入り口に。

わたしたちは、自分たちの体験と実感を力とし、将来への強い危機感も抱いて、すべての県民に向けて「循環型の暮らし」への転換を呼びかけます。

 

<三つの呼びかけ>

キャンペーン・ポスター(イラスト:ななつ)

この度の「びわ湖発。未来のセンタク2017キャンペーン」では、次の三つのことを呼びかけます。

 

1.せっけんで洗おう

まず一つ目は、あらためて「せっけんで洗おう」ということです。

富栄養化防止条例の制定により、合成洗剤は有リンから無リンへと変化し、富栄養化はは一定の改善がなされました。しかしながら、一般家庭で使用されている合成洗剤の多くは、有害化学物質の環境への排出量を把握する、いわゆる「PRTR法」の指定対象化学物質に該当しており、人体や生物への有害性が認められています。また、家庭から排出されているPRTR物質の6割が合成洗剤に関するものとの統計結果が環境省から出ています。また、合成洗剤は、大規模なプラントで、エネルギーを大量に消費しないと製造できない点や、分解しにくい点でも、循環型の暮らしにふさわしい洗剤とはいえません。

一方でせっけんは、身近にある油を原料に、小規模で、少量のエネルギーでつくることができます。身体に優しく、心地よく、自然界で完全に分解します。滋賀には大津の瀬田にマルダイ石鹸本舗があり、びわ湖のせっけん運動と歩みを共にしてきました。東近江市では、婦人会運動を基点にせっけんづくりを始めた主婦の方々が、地域で集めたてんぷら油でのせっけんづくりを今も続けています。

つまり、せっけんで洗うことは、私たちの体と、びわ湖の水を守ることであると同時に、誰もが今日から始められる「循環型の暮らし」そのものなのです。だから私たちはまず、「せっけんで洗う」ことを呼びかけます。そして、せっけん生活を広めることで、「循環型の暮らし」の心地よさと、豊かさの実感を広めます。

 

2.せっけんプラスワン

二つ目に「せっけんプラスワン」を呼びかけます。これはせっけんに加えて、何か一つ、「暮らしのセンタク」をしよう、ということです。

たとえば、食であれば、どこか遠くで、顔の見えない人が、農薬をたくさん使って育てた野菜ではなく、身近で、顔の見える人が、農薬を使わず育てた野菜を選ぶこと。エネルギーであれば、地球温暖化を引き起こす化石燃料や、放射能汚染を起こす原子力エネルギーではなく、身近にあり、いつまでもある、お日様や森のエネルギーを選ぶこと。水であれば、遠くから電気を使って運ばれる水道水だけでなく、湧き水や井戸や雨水などの身近な水も選ぶこと。

私たち6団体はそれぞれの得意分野を活かして、これら一人一人の暮らしの「センタク」を促し、その実現を支えます。

 

3.せっけん運動を語り合おう

そして三つ目は「せっけん運動を語り合おう」ということです。

びわ湖の赤潮が起きたとき、私自身はまだ1才にならない赤子でした。その私たちが、今、親世代になり、子どもたちの未来を守り育む立場となりました。しかし、現役世代だけで、暮らしの変革を遂げていくことは困難です。また、一部の環境意識の高い市民だけが取り組んでいても、社会全体の変化は起こせません。だから今、あらためてせっけん運動について、世代や立場を超えて、語り合うことを呼びかけます。

シニア世代と、現役世代、若い世代が世代を超えて語り合うことを。市民、行政職員、企業の従業員が、立場を超えて語り合うことを。過去の経験と、未来のビジョンを共有すること。人間同士として、共に大切にしたいものを確認し合うこと。そのことを促して、県民がみずから「循環型の暮らし」をセンタクする機運を高めます。

すでに、5月28日には碧いびわ湖、6月10日には滋賀県地域女性団体連合会、6月19日には生活クラブ生協でそれぞれ、交流会と講演会を催しました。7月7日にも生活クラブ生協での講演会を予定しています。

 

<40周年記念集会>

40周年記念集会(7月29日@ピアザ淡海・県民交流センター大会議室)

そして来る7月29日には、三日月大造・滋賀県知事にもご一緒いただき、「琵琶湖のせっけん運動40周年記念集会」を開催します。この集会ではまず、40年にわたり運動を支えてくださった方々への感謝を捧げます。それから、現役の若手漁師にも登壇いただき、びわ湖の現状を見据え、未来に向けた展望を語り合い、広く県民に対しても発信します。びわ湖岸では、びわ湖の魚をつかった料理や、せっけんに関する展示なども行う予定です。ぜひ報道関係者の皆様には、県民のみなさまへの開催のお知らせならびに取材でのご協力を賜りたく存じます。

なお、8月26日に予定されているマザーレイクフォーラムびわコミ会議でも、せっけん運動に関する語り合いの場を持つ予定です。

 

<人間らしい暮らしへの希求を原動力に>

ここまでの話でお分かりと思いますが、カタカナで書いた未来の「センタク」には「洗う」洗濯と「選ぶ」選択の2つの意味を掛けています。

洗う「洗濯」を入り口に、今日ここから自分自身の暮らしを「選択」することで、県民をあげて自然も社会も豊かな未来を「選択」しよう、と。

 

40年の時を経てもなお、私たちの心を突き動かす、せっけん運動の精神とは、何でしょうか、それは、「人間らしい暮らし」への希求だ、と私は思います。

わたしたちは、水も土も空も、美しく保ちたいと思います。なぜなら、世代は違っても、立場は違っても、共に同じ水を飲み、同じ大地の上に立つ「びわ湖の住民」だから。びわ湖の魚や鳥たちと同じように、命をつなぎ、育む、「生き物」だから。

私たちは、力を合わせたいと思います。なぜなら、人とつながり協力しあうことに幸せを感じる社会的動物、「人間」だから。

これからのキャンペーンの中でも、私は「人間らしさへの希求」を大切にします。「楽しいこと」「美味しいこと」「心地よいこと」そして、「子へ孫へと命をつなぐこと」「他者と心を合わせつながり合うこと」への、自然な欲求を。

県庁会見室にて

今日から私たち6団体はそれぞれの得意を活かして、140万人の県民に「循環型の暮らし」への転換を呼びかけて参ります。「循環型の暮らし」の豊かさを伝え、「暮らしのセンタク」を促して、自然も社会も共に豊かな滋賀・びわ湖の未来を、心を響き合わせてつくります。

報道の皆様におかれましては、私たちの取り組みへのご支援、ご協力、ご参画を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。